喫茶店の魅力に気付かされる喫茶店
田町の駅前は、大きなビルが建ち並び一見都会的なのだが、大通から一本入ると雰囲気がガラッと変わる。
車が容易には入って来られない、慶応仲通り商店街は特にそうで、空襲で焼けずに残った家が、今もそのままになっているのだという。現代の建築物とは造りが違い、映画のセットのよう。
道幅の狭さも、当時のままなのだろうか。細くて入り組んだ道はまるで迷路。
路地の中には、新しい店と古くからある店が混ざり合っている。ファサードがボロボロになったまま、何の気なしに営業しているのが、喫茶ペナントだ。
ドアを開けると、「どうしたの?」とでも言いたげな表情を浮かべるマスター。もう店を閉めるのか不安になったが、まだ13時。「ホットコーヒーお願いします」と声をかけると、私が客であることに気づいてくれたようだった。
商店街には食事処はたくさんあるのに、喫茶店はこの一軒しか見つからなかった。そのせいか、サラリーマン達がどんどん集まって来る。柱には常連客達のものなのか、たくさんの名刺が貼り付けられている。
店内はカウンターも合わせると40席以上ある。大人数でも対応出来るように、テーブルは簡単に移動できるタイプ。
今では珍しい、カーブした天井がレトロ。古い喫茶店に時々ある造りだから、こういう店には歴史を感じる。
メニュー表はなく、わかったのは、コーヒー・紅茶・ピラフがあること。アメリカンはなくて、ミルクは品切れだそう。
コーヒーは、ライトな飲み口で、さっぱりした味わい。マスターの気持ちが込められた一杯。
店に滞在中、注文した材料らしきものを配達する人が来た。帰りがけ、マスターに、お大事にねと言っていた。
マスターは、見る限り高齢者。足を引きずりながら、コーヒーを運んでいる。
もうすぐでお客さんのテーブルにたどり着くというところで、コーヒーがソーサーにこぼれてしまった。お客さんはこれでいいと言ったけれど、マスターはすぐに新しいものを用意した。
マスターはどんな想いでこの店をやっているのだろう。
“嗚呼、だから喫茶店って良いんだよな。”その時、私は自然とそう思っていた。
チェーン店なら、こんな気持ちになる事はない。仕事ができる人を採用し、お金をもらうために働く。お金のためだけではなくても、やっぱり重みが違う。この店を始めてかなり経つのだろう。ずっと守って来た店で、今日もマスターは働いている。
だから喫茶店は良い。
その店、場所、空間ごとに特別な雰囲気がある。チェーン店を否定しているわけではない。全国、あるいは全世界どこへ行っても同じおいしさを提供する努力も凄いことだから。
ただ、喫茶店には、ここにしかないプレミアムを感じる。そして、いつなくなるかわからない切なさがある。
そう。だから喫茶店が好き。
喫茶ペナント 店舗情報
住所:東京都港区芝5-26-3
移動時間:JR田町駅、都営浅草線、三田線三田駅から徒歩5分
営業時間:月〜土10:00〜18:00
定休日:日曜・祝日
wifi:なし
電源:あり
喫煙:全面喫煙可
HP:なし