コーヒーをもっと趣味に

Mui

Mui

昨今のコーヒーブームといえば2015年にブルーボトルコーヒーの日本上陸が象徴的だが、前後して品質の高いスペシャルティコーヒーという単語が日本国内でメジャーに使用されるようになり、特に若い世代のコーヒー消費が高まった。

いわゆるサードウェーブと呼ばれるこの潮流は、instagramをはじめとするSNSの存在もブームの後押しになっている。

フードやラテの見た目はもちろん、内装にも趣向を凝らし、自然光が柔らかく照る窓際の席で撮影されたラテとケーキの写真をアップすれば、たちまち非日常へと誘ってくれる。

そに非日常を享受し、空間を切り取り写真に収めたいとする若者たちは、未開の土地だろうと足繁く通う。SNSのおかげで都内の一等地、繁華街にお店を構える必要はなくなった。

一方で、若者というものは流行に敏感でもあり、気持ちが離れて行くのもまた光のごとく。新店がオープンすればゲルマン民族の如くそちらに流れて行く。

顧客を繋ぎとめようとする店側はさらに趣向を凝らす。いつしかお店を構えた当初に描いていたものとは全く異なる状況に陥る。

果たしてこの関係はサステイナブルと言えるのだろうか?

カフェに求めるものは人それぞれであって然るべきだが、「深く考えずコーヒーそのものを楽しむ」お店が好きだ。

mui 外観

今回紹介する元住吉の「Mui」はシンプルにコーヒーそのものの魅力に向き合える、そんな店だ。

場所は東急東横線元住吉駅。駅前からはじまるブレーメン通りという全長550mの商店街を6分ほど歩いたところに位置する。

飲食店や生活に必要なものはなんでも揃う商店街で、買い物途中に一息つく主婦層。

散歩がてらに訪れる老夫婦。

日曜日の午後の時間帯、滞在中は絶えず文字通り老若男女、お客さんが行き交っていた。

mui 店内風景

2人がけのテーブル席では、会話を楽しむカップルの姿。

カウンター席ではパソコンを片手に黙々と作業に耽る人、店員さんの所作に目をやりながら時折談笑する常連客。

各人が肩肘張らず、それぞれの時間を自然体で過ごしている。

mui カウンター

ところで、若い人たちはバリスタの所作や技巧、抽出器具の造形や種類の多さなどに魅入られる。

翻ってそれがコーヒーというもののハードルを上げる一因にもなっている。

「コーヒーは難しいものではない」

そう語るのは店主の大沢さん。コーヒーを楽しむのに世代・年齢は関係ない。自宅でも簡単に美味しいコーヒーを、普段の生活に取り入れるスタートを手伝いたい、という思いで2013年にMui(旧店名もとえ珈琲)をオープンした。

mui 焙煎機

 

大沢さんは以前は世田谷に複数店舗を経営する堀口珈琲にて、焙煎の責任者として活躍。

現在Muiで取り扱っているコーヒー豆も自らが焙煎を手がけているが、その多くは一般的には深めの焙煎。

これは昨今の浅煎りブームへのアンチテーゼ・警鐘を鳴らしている、というわけでは全くなく

「あくまでコーヒー豆本来の個性を100%引き出すために、適切な焙煎を考えた結果」とのこと。

優れた素材を、最も適した方法で提供する。

この価値観は焙煎を始めた2005年から15年間、一貫して変わっていないという。

mui coffeecup

そんなMuiが提供するコーヒーは、飲む人のコーヒーに対する価値観をアップデートさせてくれる。

いや寧ろ、コーヒーの本来の美味しさを正しい形で伝えてくれているとも言える。

ケニア カイナムイ・ファクトリーAAは、口にした瞬間に感じるベリー系の果実味が印象深い一杯だが、酸味の主張が強いわけではないので、酸味が得意でない方も飲んでみる価値あり。しっかりとした飲み応えだが、重い感じは一切なく、まさに「豆本来の個性を引き出した」一杯。

mui cake 2

Muiが提供するもう一つの楽しみはケーキとのマリアージュ。

ケニア カイナムイ・ファクトリーAAと共にいただいたのは、フォレノワールというチョコレートケーキ。

しっとりとしたスポンジと程よい甘さのチョコレートクリームの組み合わせはチョコレートケーキの王道。そこにサワーチェリーの酸味がアクセントとなって、甘さと酸味が交互に口に広がり、すいすいと食べ進められる。

先ほどのケニア カイナムイ・ファクトリーAAと共にいただくと、良い意味でコーヒーの果実味が裏方に回り、ケーキとのバランスを取ってくれる。

mui cake 1

季節のフルーツを使ったケーキも是非食べていただきたい。

洋梨のタルトは、軽めのクリームに練り込まれたピスタチオのコクが、清涼感ある洋梨のコンポートの甘さを引き立てている。

土台になっているガレット生地は仄かな塩味があり、ザクザクとした食感がコンポートとの相性を抜群に引き上げ、食べ勧めても飽きがこない。

クリームはピスタチオからキャラメルに変えたりもしているそう。同じケーキでも毎回少しずつマイナーチェンジするようで、訪れるたびに新しい味に出会えるのも楽しみの一つ。

mui coffeegift 1

「良いと思ったものは、良い形で紹介したい。それはコーヒーに限らない」

と語る大沢さんの考えは、メニューのみならずお店の至る所に現れている。

お店の入り口付近に並ぶテイクアウト商品の中には、一見カフェに似つかわしくないごま油の姿も。

mui coffeegift 2

コロナ禍の昨今で、自宅でもコーヒーを楽しんでもらうため、Muiではギフト用のコーヒー豆のセットにも提供している。

コーヒー豆を購入した人にはオンラインセミナーの無料招待も行なっているので、是非チェックしていただきたい。

https://www.mui-motosumi.co.jp/SHOP/TR-ND002.html

「Mui」という店名は「無為」つまり「あるがまま」であるということ。

ストレスなく自然体であること、溶け込むように存在すること。

Muiはコーヒーのハードルを良い意味で下げ、食を起点として人々の生活にアクセントを提供してくれるコーディネーターとも言える存在だ。

Mui 店舗情報

住所: 神奈川県川崎市中原区木月3-13-2

移動時間:東急東横線元住吉 駅から徒歩6分

営業時間:10:00~19:00 日曜営業

定休日:火曜 第1、第3、第5水曜

wifi:平日のみ可

喫煙: 不可

HP: https://www.mui-motosumi.co.jp/

About the Author

神宮司茂

東京都下町生まれ下町育ちの30代。コーヒーは大学生くらいまで苦手でした。大学生の頃、新宿のPAUL BASSETTでラテアートを見て感動したのがコーヒーとの出会い。休日は専ら愛機のb-ant 406steel(ミニベロ)で都内を散策。コーヒー以外に、ラーメン、ファッション、ミステリ小説、ガンダム(宇宙世紀)と守備範囲は広め。 モットーは「広く、それなりに深く」。