ベトナムコーヒーというと「濃くて苦い」「練乳で甘々にして飲む」といったイメージが強いのではないでしょうか。
実際そうなのですが、なぜ濃くて苦いのか?練乳を入れるのか?意外と謎の多いコーヒーでもあります。ここではそんなベトナムコーヒーについて、またカフェ・スアについてもお話ししていきます。
ベトナムコーヒーとは?
なぜ時間が長い?
ベトナムコーヒーは、写真の専用器具を使って淹れるコーヒーです。このドリッパーは、植民地時代の宗主国フランスの金属フィルターをアレンジしたものです。
このベトナムコーヒー、要領としてはドリップコーヒーなのですが、決定的に異なるのが「抽出する時間」です。ベトナムコーヒーは、中国語で「滴滴珈琲」と書かれるほど、一滴一滴時間を掛けて抽出します。このように時間が長いと、お湯とコーヒー粉の触れる時間が長くなるので、コーヒーも濃くなるのです。
では、どうしてドリップより時間が長くなるのか?それは、コーヒー粉を押さえつけるからです。ベトナムコーヒーはドリッパーに内蓋が付いており、それでコーヒー粉を抑えます。圧迫されたコーヒー粉の隙間が狭くなり、お湯が通りづらくなるのです。そのために抽出時間が長くなるのです。
なぜ濃く淹れるの?
ベトナムコーヒーはなぜ濃厚なのか。それはベトナムのコーヒー生産に由来しています。
ベトナムは世界第2位のコーヒー生産国ですが、その多くがロブスタ種なのです。ICO(国際コーヒー機関)によると、2017年のベトナムでは60kg袋のロブスタ種が20,038,706袋も生産されています。
そんなベトナムで飲まれるコーヒーは、もちろんロブスタ種が主流です。しかし、ロブスタ種は飲みづらいと言われており、苦みと独特の風味を持っています。そこで、思いっきり濃厚にすることで、苦みで独特の風味を抑えているのです。そして苦みを出すためにコーヒー豆は、深煎りを用いるのです。
しかし、苦すぎてしまってはとても飲めたものではありません。そこで登場するのが、練乳です。
なぜ練乳を入れるの?
ベトナムコーヒーといえば練乳で甘々にする、というのも大きな特徴です。
しかし「なぜ練乳なのか?牛乳と砂糖じゃダメなのか?」と、気になったことはありませんか?それはベトナムのお国事情に由来します。
ベトナムは熱帯気候の暑い地域で、加えて昔は冷蔵庫があまり普及していませんでした。そのため、牛乳を長期保存するのが難しかったのです。そこで出てくるのが練乳です。糖分を高めることで保存性を高めた練乳は、ベトナムというお国柄、そして苦いコーヒーにうってつけだったのです。
その結果、ベトナムコーヒーは練乳がスタンダードとなったのです。
Cà phê sữa(カフェ・スア)とは?
スタンダードな練乳オレ
ベトナムコーヒーはお話しした通り、練乳を加えて飲むのが一般的です。この練乳オレはベトナム語でcà phê sữa(カフェ・スア:直訳するとコーヒー牛乳)と呼ばれます。
そしてカフェ・スアの面白いところが、その淹れ方です。通常のカフェオレは、コーヒーに牛乳を注ぎますよね。しかし、カフェ・スアの作り方はそれとは逆となります。
あらかじめ練乳を注いでおき、その上にドリッパーを置いてコーヒーを淹れるのです。そうして出来上がったコーヒーは、練乳とコーヒーの綺麗な二層に分かれ、見目お洒落な一杯となるのです。
アイスにするとcà phê sữa đá(カフェ・スア・ダー)
ベトナムは暑い国なので、ホットなコーヒーを飲むのはなかなか辛かったりします。そこでcà phê sữaをアイスにしたのが、cà phê sữa đá(カフェ・スア・ダー)です。ちなみにđá(ダー)はロック(=ロックアイス)を意味しています。
それではカフェ・スアも含めて、これから作り方を見ていきましょう。
Cà phê sữa / cà phê sữa đáの作り方
ベトナムコーヒーの基本的な淹れ方は、こちらから。
≪準備するもの≫
- ベトナム式ドリッパー
- コーヒー粉(深煎り)
- お湯
- 練乳
- 氷(cà phê sữa đáの場合のみ)
≪cà phê sữaの作り方≫
- まずコップに練乳を注ぎます。
- 次にドリッパーにコーヒー粉を入れて、蓋で抑えます。
- そしてドリッパーをカップに乗せたら、お湯を一気に注ぎます。
- するとカップにゆっくりコーヒーが落ちて……
- コーヒーが落ちきったら、cà phê sữaの出来上がりです。
≪cà phê sữa đáの場合≫
- cà phê sữa đá は、(5) のコーヒーに氷を入れると完成です。
※ 基本的に練乳と違って、氷は後から加えることが多いです。
その他のベトナムコーヒー
練乳なしのCà phê đen
ベトナムコーヒーは練乳がスタンダードですが、練乳なしのものもあります。それがCà phê đen(カフェ・デン)です。
一見するとブラックに見えますが、実際は砂糖で甘くしています。要は砂糖入りのベトナムコーヒーです。こちらもアイスでは“cà phê đen đá(カフェ・デン・ダー)”という名前になります。ちなみにホットは“cà phê đen nóng(カフェ・デン・ノン)”と言います。
練乳多めのBạc xĩu
Cà phê đenとは反対に、練乳の多いものが“Bạc xĩu(バク・シウ)”です。
作り方はcà phê sữa đáは全く同じで、違う所はコーヒーが少なく練乳が多いということです。cà phê sữa đáより甘く飲みやすいので、スイーツが欲しいときにお勧めです。
簡単で甘いベトナムコーヒー
ベトナムコーヒーは淹れ方が簡単で、そして何といっても濃厚で甘くしたコーヒーは格別です。家にエスプレッソマシーンがなくとも、濃厚なコーヒーが家で簡単に飲むことができるのもメリットの一つです。
コーヒー通を除いてはマイナーな飲み方のベトナムコーヒーですが、実はこの容易さや濃厚さは、初心者の方にお勧めしたい器具です。ドリッパー自体の値段も数百円と安価ですので、一度使って飲んでみる価値のあるコーヒーです。