フレンチ、またはイタリアンレストランなどで食後に出てくる「デミタス」。そもそもデミタスという言葉が何を指しているのかご存知ですか。今回は、デミタスの歴史とともに「食後にデミタスを飲む理由」についてお話しします。
デミタスについて
デミタス(demitasse)とは、フランス語で「demi=半分の」「tasse=コーヒーカップ」という意味で、端的に言うと、小型のコーヒーカップのことを指します。この小型のカップに本来のコーヒー豆の分量の2/3を使用し、濃いめに淹れたコーヒーをデミタスコーヒーと呼んでいたそうです。
広義的には、小さめなカップを使って淹れた濃いめのコーヒーであれば、エスプレッソやトルココーヒーであっても”デミタス”の括りに入ります。
デミタスの歴史
デミタスが生まれたのは1806年頃のフランス。当時ナポレオンの大陸封鎖令により、フランス植民地で砂糖やコーヒー豆が極端に不足したため、コーヒーの価格が高騰していました。
カフェではコーヒーを求める客が多かったため、コーヒーの量を減らし価格を下げ、小さいコーヒーカップで提供する対策をはじめました。当時、コーヒーに似た飲料(代用コーヒー)が出回っていましたが、ローマにあるカフェグレコの3代目サルヴィオーニがこれを良しとせずとった施策とされています。
この対策は多くの客に受け入れられ、原料不足の危機をしのぐ結果となっています。このコーヒー豆の価格高騰への対策が、歴史上の「デミタス」のはじまりだと言われています。
トルココーヒーがヨーロッパで大人気
フランスにトルココーヒーが伝えられたのは1664年。トルココーヒーとは、コーヒー粉と冷水を「イブリック」と呼ばれるコーヒー専用鍋に入れ、煮立たせたあと、コーヒーの上澄みだけを飲むというものです。
その後、1717年にリンネルの袋にコーヒーを入れ、湯の中にコーヒーを浸す「ティーバック」のような飲み方が考案され、ヨーロッパでのコーヒーの淹れ方は長年愛用されてきたトルコ式から少しずつ変化していくことになったと伝えられています。
ヨーロッパコーヒー器具の歴史
- 1717年:リンネルを浸すコーヒー抽出法を考案、リンネルによる「ネルドリップ」が広まる
- 1763年:「ドリップポット」の発明
- 1842年:「コーヒーサイフォン」の原型となる器具が発明された
- 1901年:高圧力で濃厚なコーヒーを抽出する「エスプレッソマシン」が開発
- 1906年:ミラノ万博にエスプレッソマシンが出品、エスプレッソの起源とされる
- 1908年:使い捨ての「ペーパードリップ」が誕生、ヨーロッパを中心に大人気に
コーヒー器具の歴史を振り返ると、ナポレオンの政策がきっかけでデミタスが生まれ、コーヒーの新しい淹れ方としてエスプレッソが生まれたという、時間の流れがわかりますね。
デミタスとエスプレッソの違い
デミタスは「大きさ半分のカップに淹れた濃いめのコーヒー」で、エスプレッソは「深煎り・極細挽きの豆を圧縮して淹れた濃いコーヒー」です。
見分け方は2つ。「厚みのあるカップにはいっている」「クレマ(表面の泡)がある」コーヒーがエスプレッソです。
ちなみに「デミタスの中にエスプレッソも含まれている」という認識も、先に述べた通り間違いではありません。
食後のコーヒーについて
フランスでは、食事の時にワインを一緒に楽しむ文化があります。当時より、食後の酔い覚ましとして覚醒作用が期待されていた濃いコーヒーを食後に飲む習慣があったそうです。
コーヒーを食後に飲むことで、油分をリセットする効果や消化促進効果が期待でき、食事のエンディングという意味合いでもコース料理の最後にコーヒーが飲まれていました。
食後にデミタスを飲む理由
なぜ食後にデミタスを飲むのか。ここまででお気づきになった方もいるのではないでしょうか。食後に口をさっぱりとさせたい、リセットさせたいのなら、それなりのインパクトを感じさせるものであるべきだから、となります。
単純な話、濃くて満腹なお腹に負担をかけない量、というイメージで間違いではありません。ヨーロッパ版「食後のお茶」の役割を果たしているのがデミタスというわけです。
デミタスの歴史と食後に飲む理由まとめ
食後にデミタスを飲む理由は、日本でいう「食後のお茶」の役割にあたるものです。デミタスの発祥は、ナポレオンの大陸封鎖令によるコーヒー不足を補うための‘苦肉の策’でしたが、小さなカップで提供されるコーヒーは、その後も定着し受け入れられ、何世紀も経った今でも愛される飲み方へと昇華していったのです。